乳がんの化学療法に用いられる、アルキル化剤をはじめとする抗がん剤は、卵巣毒性を持つものが多く、治療後に卵巣機能の低下のリスクがあります。また、乳がん治療には、初めの治療の後、数年にわたる長期間のホルモン治療を必要とする方も多くいらっしゃいます。ホルモン治療は、直接治療後の妊孕性に影響をすることはありませんが、ご自身の年齢によってはホルモン治療が終わるころには年齢が高くなることにより妊娠が難しくなってしまういます。このような方に対しては、治療開始前に妊孕性温存治療を行っています。
排卵誘発から採卵、凍結までの基本的な治療経過は、他の一般的な妊孕性温存治療と大きく変わるわけではありません。通常注射剤の排卵誘発剤を用いた調節卵巣刺激を行い複数個の卵子を採取するように計画します。調節卵巣刺激を開始してから採卵までの期間は最短2週間です。採卵後1週間~10日間ほどは、卵巣過剰刺激症候群を発症するリスクが高いため、採卵が終わってすぐに原疾患の治療を開始できるわけではありません。原疾患の治療スケジュールが許容すれば、複数回の採卵を行うことも可能です。

また、乳がんのタイプによっては、女性ホルモンに反応するものが存在します。その場合には、調節卵巣刺激中にアロマターゼ阻害剤を併用することにより、できるだけ女性ホルモンが上昇しないようにすることがあります。

一方で、実際に卵子や胚を凍結するかどうかの意志決定は、しばしば容易ではありません。当科では、生殖医療コーディネーター(日本生殖医学会が認定する生殖医療専門の看護師です)を交えて相談にのる、などきめ細かなサポートを行っています。

卵子や胚の凍結を行おうと決めている方のみならず、実際に卵子や胚の凍結を受けるかどうかを迷っている、妊孕性温存診療の話をひとまず聞いてみたい、という方もぜひ受診をご検討ください。