産婦人科領域では、早くから低侵襲手術が導入されましたが、婦人科悪性腫瘍領域では一部の先進施設のみで行われるのみで、保険適応が開始されたのは2014年4月に早期子宮体癌に対する腹腔鏡手術が初めてでした。
その後、2018年4月には早期子宮頸癌に対する腹腔鏡手術、早期子宮体癌に対するロボット支援下手術が、2020年4月には子宮体癌に対する腹腔鏡下傍大動脈リンパ節郭清術と遺伝性乳がん卵巣癌症候群に対するリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)が保険適応となりました



低侵襲手術ではその名が示す通り、従来の開腹手術に比べて創が小さく目立たない、痛みが少ない、出血が少なく輸血の頻度が下がる、入院期間が短い、術後の合併症(腸閉塞、血栓症、リンパ浮腫など)が少ない、これらの結果として社会復帰が早く、医療経済にも良い影響があると考えられメリットの多い手術です。一方で、技術の習得が難しく、実施できる施設・術者が選ばれること、手術時間の延長や麻酔管理などの面でデメリットもあります。
重度の肥満や合併症の有無によっては、患者さんのご希望があっても適応が難しい場合もあります。

一般的に低侵襲手術とは腹腔鏡手術やロボット支援下手術を指します。
腹腔鏡手術は臍部と下腹部~側腹部に4-6か所、0.5-2cmの小切開(ポート)を置き、鏡視下で術者が操作鉗子を操って実施する手術です。ロボット支援下手術はこの手術を内視鏡手術支援機器(daVinci Xi)を用いて行い、創部は臍周辺に4-5か所の創となります。低侵襲手術では上記の手術侵襲が少ないメリットがあり、適応があればお勧めいたします。

ただし、高度の癒着による操作困難や、不意の臓器損傷や大出血などの場合には修復・止血操作のため、開腹手術に移行する必要もあり、その場合には開腹までの時間がかかることでデメリットが生じることもあります。

腹腔鏡手術も十分低侵襲ですが、ロボット手術の方が3Dカメラ、7関節可動のロボットアームによる鉗子操作、創部の場所や創部周辺へのダメージ減により、より根治性が高く侵襲の少ない手術が可能です。

一方で、腹腔鏡に比べて頭低位がきつい(腹腔鏡15-20度、ロボット手術25度程度)ことや、腹腔鏡に比べてロボットの準備などで麻酔時間が延びる(0.5-2時間程度)により、麻酔維持が難しかったり、合併症増悪のリスクがあります。また、ロボットアームの干渉から低身長や極端に体躯が小さい場合はセッティングが難しく実施が困難なこともあります。


また、腹腔鏡手術やロボット支援下手術では開腹手術に比べて術者が選ばれるため手術できる日程が狭まること、またロボット支援下手術は各科で使用できる曜日・日程が規定されていることから、選択できる日程がさらに狭まります。

病状・患者さんごとの詳細な手術合併症などについては、担当医から詳しくお聞きください。

当院で低侵襲手術が実施できる疾患と術式、おおよその費用・入院期間についてご案内いたします。

子宮頸部異形成と脈管侵襲のない子宮頸癌ⅠA1期に対しては腹腔鏡下子宮全摘術の適応があります。
術式はK877-2で手術点数は42050点(3割負担で12615円)で、これに加えて入院基本料金、食事・検査・投薬の費用負担が生じます。入院期間は術後5-7日です。


脈管侵襲のあるⅠA1期、ⅠA2期、腫瘍径2cm以下のⅠB1期・ⅡA1期に対しては腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(リンパ節郭清を含む)の適応があります。術式はK879-2で手術点数は70200点(3割負担で210600円)で、これに加えて入院基本料金、食事・検査・投薬の費用負担が生じます。入院期間は術後7-10日程度です。

前がん病変である子宮内膜増殖症に対しては腹腔鏡下子宮全摘術、ロボット支援下腹腔鏡下子宮全摘術の適応があります。
術式はK877-2で手術点数は42050点(3割負担で12615円)で、これに加えて入院基本料金、食事・検査・投薬の費用負担が生じます。入院期間は術後4-7日です。


術前診断で子宮体癌ⅠA期相当に対しては腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(リンパ節郭清を含む)、ロボット支援下腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(リンパ節郭清を含む)の適応があります。
術式はK879-2で手術点数は70200点(3割負担で210600円)で、これに加えて入院基本料金、食事・検査・投薬の費用負担が生じます。入院期間は術後5-10日程度です。


術後に傍大動脈リンパ節転移の可能性が指摘される症例に対しては、腹腔鏡下傍大動脈リンパ節郭清術の適応があります。
術式はK627-2_2で手術点数は41090点(3割負担で12327円)で、これに加えて入院基本料金、食事・検査・投薬の費用負担が生じます。入院期間は術後4-7日です。

卵巣癌に対する根治的な手術は適応がありません。
開腹手術を実施するかどうかを決めるため、術前・化学療法前に確定診断・組織採取を目的とした審査腹腔鏡のみが適応となります。
腹腔鏡下試験切除術K636-4で手術点数は11320点(3割負担で33960円)で、これに加えて入院基本料金、食事・検査・投薬の費用負担が生じます。入院期間は術後4-7日程度です。

HBOCについての詳細は他稿を参照ください。HBOCに対するRRSOは保険適応です。
当院では腹腔鏡下で両側付属器切除のみ(子宮摘出は同時には実施しない)が実施できます。
術式はK888-2で手術点数は25540点(3割負担で766620円)で、これに加えて入院基本料金、食事・検査・投薬の費用負担が生じます。入院期間は術後4-5日程度です。


当院では2017年より積極的に婦人科悪性腫瘍に対する低侵襲手術を導入し、現在すべての保険術式に対して対応可能となっています。件数は少ないものの、大学病院ならではの総合力を生かし、一人一人の患者様に真摯に向き合い、丁寧な手術・管理を心掛けることで、治療成績は従来の開腹と同等を維持しております。
産科婦人科内視鏡学会(JSGOE)に報告が必要な術中合併症については、JSGOEの内視鏡手術全国調査で全国平均約3%と報告されていますが、現行の術者・体制で実施している2017年10月以降の当院での合併症発症は、約0.05%と比較的低く維持できています。