婦人科がん治療後に生じる症状や疾患としては以下のようなものが挙げられます。

①卵巣欠落症状・更年期障
②脂質異常症・心血管疾患・糖尿病などの代謝系疾患
③骨粗しょう症・ロコモティブ症候群などの運動器系疾患
④セクシュアリティの問題、ボディイメージの障害
⑤抑うつ・不安・認知症など中枢神経系疾患
⑥尿漏れなど泌尿器系疾患
⑦リンパ浮腫、末梢経障害
婦人科がんの治療は手術療法・放射線療法・化学療法で行われ、各治療法はそれぞれ特徴的な効果と副作用をもっています。
婦人科がんでは卵巣摘出を必要とする場合が少なくなく、エストロゲン欠落という新たな病態にも直面します。
両側の卵巣を摘出してエストロゲン分泌が消失した場合、自然に閉経した場合に比べて症状の程度が重くなることも指摘されています。

また、婦人科がんの患者さん以外でも、遺伝性乳がん卵巣がん症候群に対し予防的卵巣卵管切除を行った方においても、エストロゲン分泌の消失による疾患が生じる可能性があります。
これらの状態は、長期的な目でみた場合、将来の健康状態や寿命にもかかわってくるとされています。

婦人科がん治療後の患者さんが増加してきている現在、がん治療後のフォローアップでは、単に再発の早期発見・早期治療に関心が向けられるだけでなく、治療によって生じた機能障害や起こりうる疾患も考慮したものである必要があります。
当科では、婦人科がんの治療を受けられた患者さんの治療後のフォローアップを腫瘍外来(月曜日午後、水曜日午後)で行っているほか、腫瘍ヘルスケア外来(水曜日午後3時〜4時)で治療後の健康管理を行っています。
更年期症状の有無、骨密度のチェック、動脈硬化の程度のチェック、排尿障害や便通のチェック、リンパ浮腫や末梢神経障害の有無などのチェックを行っていきます。
更年期症状の有無や程度は問診票・アンケートを用いてチェックしていきます。更年期障害に似た症状を起こす可能性のある内科の疾患や精神科の疾患を、血液検査や他の科へのコンサルテーションを行って否定することも重要です。症状の性質や程度に応じて薬物治療を検討します。

骨密度のチェックでは、定期的な骨密度の測定を行っていきます。
骨密度の測定は原則として腰椎または大腿骨近位部で行い、一定以上の骨密度の低下を認めた場合には薬物治療を検討します。

脂質代謝異常症やそれによって起こりうる動脈硬化の程度は、定期的な血液検査やCAVI検査という動脈の硬さを調べる検査を定期的に行っていきます。高度の異常を認める場合には、内科などにご紹介する場合があります。

以上のようなチェックを行った上で、薬物療法が必要と考えられる方には以下のような薬物療法が検討されます。
婦人科がん治療後に起きうる多くの症状には、エストロゲン分泌低下が関わっています。
そのため、不足しているホルモンを薬として補充してあげることで症状を改善できることがあります。
患者さんによってはホルモン剤ががんの再発に悪影響を及ぼすのでは、と心配される方もいます。
子宮体がんⅠ,Ⅱ期、卵巣がん、子宮頸がんでは治療後のホルモン補充療法が再発リスクを上昇させる証拠はないとされており、それぞれのがんの治療ガイドラインでは副作用などのデメリットも考慮した上でホルモン補充療法を検討するとされています。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群の方が両側卵巣摘出を受けられた場合もエストロゲン分泌低下が問題となりますが、乳がんの発症に影響を与えるのではないかということが懸念されてきました。
この点を明らかにするため、大人数の遺伝性乳癌卵巣癌症候群の患者さんフォローアップした研究が複数行われており、ホルモン補充療法が乳がんの発生率を上昇させることはないとされています。
婦人科がん治療後の方、予防的卵巣摘出術を受けられた方どちらの場合においても、子宮を温存している場合のホルモン剤投与による子宮体がんの発生や、血栓症、肝機能障害といった副作用には注意が必要です。
症状や疾患の性質や程度によっては、生活習慣の改善や漢方薬の内服が勧められる場合もあります。
精神的な症状が強い場合には、向精神薬を内服したり心理療法を行ったりすることで症状が改善することもあります。
また、骨粗しょう症のチェックで骨密度の低下を認めた場合には将来的な骨折のリスクを評価したうえで、ビスホスホネート製剤、抗RANKL抗体、SERMといった骨粗しょう症に対する薬を使うこともあります。

これらの診療に関しては、治療後のフォローアップを行う腫瘍外来でも適宜担当医からご案内して参りますが、もしご希望・ご不明な点などございましたら、腫瘍外来担当医にご相談ください。